川崎市におけるパソコン通信

「川崎市の広報広聴行政におけるニューメディアの活用について/第5章」より

【目次】

1 まちづくりネットワーク“KITTY”
(1)概要
(2)開局当時のボード構成
(3)開局の目的など
(4)“KITTY”と行政との関係
2 「21世紀・川崎まちづくりボード」
(1)概要
(2)開設の目的など
(3)評価
(4)総括として

川崎市におけるパソコン通信は、今後初めて行うわけではない。かつて、そして今も“Kitty-net”があり、“IIP”がある。これら2つのネットの発展として川崎市のパソコン通信を考えるのか、それとも第三のネットを構築するのかは不明であるが、これまでの資産の評価をしておくことは決して無駄ではないし、むしろ行わなければならない重要な課題であると考える。そこで、上記2つのネットについて次のとおり見ていくことにした。

1 まちづくりネットワーク“KITTY”

(1)概要

1987年9月15日 開局
運営 日本計画行政学会高度情報都市専門部会
事務局 東京工業大学社会工学科熊田研究室
協力 川崎市企画調整局文化室
1989年4月1日 完全民営化 “Kitty-net”へ名称変更
「まちづくり」の看板を降ろし、現在に至っている。

(2)開局当時のボード構成

▼▼▼▼▼▼ まちづくりネットワーク KITTY ▼▼▼▼▼▼
1. 総合案内所 2. 会員センター 3. 電子掲示板
4. 電子会議  5. 電子メール  0. 終了

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会議の構成
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20 キャンパス都市とは? [CAMPUS ]
30 高度情報都市にむけて [URBAN ]
40 KITTYについて考える [KITTY ]
50 市民シンポジウム/市民サロン [SIMPO. ]
60 まちづくり [町づくり]
61 川崎百景 [100KEI ]
70 一休 [IKKYUU ]
71 路上観察学 [WATCHING]
72 読書 [BOOKS ]
73 SF [SF ]

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掲示板の構成
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1 《オープニング・メッセージ》 [OPENING ]
2 《KITTY総合案内》 [INTRODUC]
3 KITTY_SYSTEM_INFORMATION [SYSTEM ]
4 キャンパス・シティ・ニュース [CITY ]
5 はりがみ [HARIGAMI]
6 キャンパス都市構想・資料室 [DATA ]
10 KIT委員会ニュース [COMMIT. ]
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(3)開局の目的など

これについては事務局による次の掲示がある。開局当時の事務局の意気込みを示す、すがすがしいファイルである。

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■KITTYのめざすもの

(「2 《KITTY総合案内》 [INTRODUC]
2 事務局 (000) 1987/09/02 21:14」より、引用)
KITTYは、まちづくりのためのネットワークです。パソコンが始めての人も、川崎のまちづくりに参加したい、とお考えの方は、大歓迎します。
麻生区のAさんと、川崎区のBさんは、同じ言葉をつかって違うことを話しています。高津区のCさんとDさんは、同じことを話すのに違う言葉を使って話します。EさんとFさんは、はじめから相手の言うことを信じようとしません。まちづくり会議や市民シンポジウムでこんなスレ違いを経験したことはありませんか?
人が違えば、意見や考えが違うのは当然です。しかし、異質のものが、それぞれの本来の性質を失わずに、ふれあい、融け合うと、限りなくゆたかで、新鮮なアイデアがうまれてきます。
KITTYは、こんなふれあいの場です。
まず、裸のあなた自身と向き合ってください。他人の目を気にせず、普段あなたが感じていることや、疑問をあなた自身の言葉でかいてください。だれでも自分の考えを敬意をはらって聞いてもらう権利があります。
日常のしがらみや、世間体の下に埋れた微弱なメッセージに耳を傾けてください。それからあいての言葉に耳をかたむけてください。そうすれば、今まであなたの気づかなかった自分や相手を発見することができます。
『まちづくり』ってなんでしょうか? どうすれば、『まちづくり』に参加できるのでしょうか? そんな疑問をもっていらっしゃるあなたも、実は『まちづくり』に参加している、と言ったら、少し驚かれるのではないでしょうか。
『まちづくり』を考える上で一番問題なのは、生活することで、私たちは現在この瞬間にも、『まちづくり』に参加している、という事実に気づかないということではないでしょうか。
KITTYがめざす『まちづくり』は、生きていることを実感する『まちづくり』です。生きることを、ひと呼吸ひと呼吸、大切に息をすることにより実感するように、日常の生活を貞節にすることから出発することをねらっています。
KITTYで話題にしてほしいメインテーマは、「キャンパス都市・川崎」構想です。キャンパス都市とは、川崎市全体を学びの庭として整備しようとするものです。川崎市は昭和61年3月に、この構想をまとめ、62年度、63年度にかけて、基本計画づくりにとりくんでいます。
キャンパス都市・川崎とは、全市域に広がる情報館のネットワークを基盤とする新しい概念の大学=KIT(Kawasaki Institute of Technology)を構想し、川崎の全市域をキャンパスとみなします。
このキャンパスには、知的活動をめざすにふさわしい「かわさきの風姿」が川辺に、海に丘に、都市に点在し、市民が主体となった知的活動の場、「川崎市民塾」があちらこちらで営まれ、さらにそれらを高度情報システムがしっかりと支えています。そんな川崎市の新しい姿が、キャンパス都市・川崎です
現在、東京湾岸には、大型プロジェクトがいくつも計画されています。しかしキャンパス都市がめざすものは、あくまでもパーソナルなスケールが基本です。
ビルや道路を大量生産するのでなく、都市づくりを個人個人の手の届く範囲に取り戻すための試みが、キャンパス都市づくりです。
キャンパス都市についての疑問、提案、そしてもっと広く「まちづくり」の提言があれば自由にKITTYをご利用下さい。
さいわいにも、KITTYには、「キャンパス都市・川崎」の計画づくりにたずさわっている委員の先生方、川崎市文化室の方が参加しています。
しかし委員の先生方や市職員との対話も重要ですが、市民どうしのいきいきとした対話がまきおこせることを何よりも期待しています。
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(4)“KITTY”と行政との関係

このようなねらいで開局した“KITTY”だったが、事務局の期待に反して硬派のまちづくり関係ボードは低調だった。この原因の一つに、「行政からのレスポンスがない」というものがあった。当時の会員には、川崎のまちづくりネットとしての“KITTY”に期待をして参加した者も多かったので、これらの会員は当局の対応に関して深い疑問を持つに至った。このような状況の下、開局後9カ月が過ぎ、次のような質問が出された。また、この質問に関連して会員の間で様々な意見が出された。以下、多少長いが引用してみたい。
(以下「 40 KITTYについて考える [KITTY ] 」より引用
一部、原文の趣旨を損なわない限りで編集している。また原ファイルでは、ファイルの掲示者は本名が表示されているが、この転載に当たっては仮名とした。)
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78 織田 (***) 28 行 1988/06/18 20:14 25 回

公開質問 川崎市企画局文化室御中
KITTYに関するいくつかの基本的な事柄について質問いたします。
この質問は大方の会員に共通するものとおもいます。誠意あるご回答を
御願いいたします。
1.市にとって、KITTYとは一体、なんなのか。
まちづくりネットワークという触れ込みで開局したが、
行政との関係がはっきりしないため、まちづくりに関する会議は
低調である。KITTYで発表された、まちづくりについての
意見を受けとめ、行政に反映させるような対応は可能かどうか。
2.市営ではなく、日本計画行政学会にKITTYの運営を委託した理由は何か。
大方の会員は、入会してからこの疑問を持つ。これについての
説明を求む。
3.市からKITTYに情報を提供する考えはあるかどうか。
各種の広報を定期的に掲載することへの希望は多い。
4.業務として市職員をKITTYの運営にあたらせる考えはないか。
以上
なお、回答はなるべく速やかに願います。
事務局から市長宛てに送付してください。
麻生区在 織田
 
79 羽柴 (***) 18 行 1988/06/18 20:24 24 回

KITTYの運営と市当局の対応について
織田さんの気持ちはよく理解できるんですが、また私自身も同じことを思って
いますが、やっぱりじっくりやっていきましょうよ。
それに市民自身がこのKITTYを担っていく、そして市当局を巻き込んでいく
という方向のほうがいいと思います。
(以下略)
 
80 上杉 (***) 28 行 1988/06/19 23:22 1 回

KITTYの運営と市当局の対応について
質問のあて先ではないのですが、一言。架空の回答です。
1.市にとってKITTYとは、文化行政の一環である。
したがって、実際の「まちづくり」とは一線を画して位置付けられる。
「まちづくりについての意見を受けとめ、行政に反映させるような対応」は、
原則的に可能ではあるが、性格的に文化室の事務の範囲を逸脱する。
2.日本計画行政学会にKITTYの運営を委託した理由について
もともと学会から出た話であるし、第一市にはパソコン通信がどのようなも
のかの知識が不足している。
したがって、そのような経緯と技術的理由によるもので、他意はない。
3.市からKITTYへの情報提供については、KITTYに関する事務を広報部
あたりに移さないと難しい。
局間(企画調整局から市民局)にまたがる問題なので、市長の了解が必要で
ある。したがって、簡単な問題ではない。
また、「希望が多い」というが、どれほどのものか?
KITTYの会員数、アクセス状況を考えるとそれほどのものとも思えないが。
4.市職員を業務として、KITTYの運営にあたらせることについて
行政改革の折り、職員定数は増やせない。
現員でやりくりがきくのか?
どうしてもというのなら、市職員を「学会」に出向させるか。それなら定数に
響かない。
まったくの想像ですので、間違っていたらごめんなさい。
 
81 武田 (***) 49 行 1988/06/20 01:06 35 回

KITTYの運営と市当局の対応について(想像にしてはやけにリアリティーが!)
…感じられますね。いかにもという感じがします。
(中略)
そこで事務局をさしおいてこの仮想回答に対して私の意見をかきます。事務局の
方、すいません。
 
まず、次の3点について。
1.市にとってKITTYとは。
2.日本計画行政学会にKITTYの運営を委託した理由について。
4.市職員を業務として、KITTYの運営にあたらせることについて。
これらは市や事務局の都合だけの話なのでユーザとしては反論のしようが無い。
また、4については市民全体の要望とのかねあいがあるので現時点ではKITTY
のようなコンピュータホビー(異論はあるだろうが)に対して市が特別な措置をと
ることは疑問である。「川崎が高度情報都市を目指していてパソコン通信はそれに
沿ったものだ」との意見もあるだろうが、高度情報都市を目指すというのが市民全
体のコンセンサスを得ていないのが現実である。(私自身も懐疑的かつ消極的にみ
ている)従って、よい返事が獲られないのはやむを得ないものと思う。(市が否定
的なのと、市民のコンセンサスが得られないのは多分別の理由だと思うが)

次に、
3.市からKITTYへの情報の提供。
これを否定するのは全くもって理由が不明である。情報の提供によって余計な仕
事や問題が生じるのを(そんなことはないのに)恐れた事なかれ主義の典型的な回
答だ。それに市が提供する情報というのは誰にも知る権利があるからこちらから情
報の提供を申し入れたら出すべきだ。ただ出し方を既存メディアよりも便利な形に
したいというだけの事なのに。また、市の情報というのは半分は市民から提供され
ているものだと思われる。それを提供できないと言うのはKITTYがどんなネッ
トであろうと理由にならない。KITTYからのユーザーの情報入手要望に付いて
はたいへん高いといえると思う。
それはKITTYに限った事ではなく、一般の公共通信システムに言えることで
もある。それにこれを一般市民全体の要望と一緒に考えるのは間違っている。これ
はKITTYを活性化するための手段であって、いわばKITTYの「自主努力」
である。

最後に、
○KITTYの自主活動について。
KITTYが行政の管轄になっているのに(よく判らないが)行政が非協力的
しかも勝手な行動を許してもらえないとしたらこれは最悪の状態だといえます。身
動きがとれませんから。少なくともどっちか一つをなんとかしなければならない。
私の場合、行政べったりは感心できません。事務局の自主的活動を望みますし、更
には各ユーザの独自のKITTYとしての活動を認めてもらいたい。それはパソコ
ン通信のメディアの特性上運営側より、ユーザ側の方が情報源として重要だからで
す。これが許されればユーザが独自に情報チャネルを捜したりできますし、(もち
ろん掲載にあったては事務局との連絡調整を必要としますが)議題にのぼった疑問
点などをKITTYとして質問することができますから。この問題は一番重要だと
思います。
※オンライン・会議シミュレーションになってしまいましたが参考にして下さい。
83 上杉 (***) 32 行 1988/06/22 00:16 1 回

KITTYの運営と市当局の対応について(主に81発言に対する意見)
(中略)
2.「市からKITTYへの情報の提供」に対する意見
1ユーザーとして、私はこのことを否定しません。
ただ、市が従来の行政的発想から抜け出ないと、難しいな、と思います。
そこで、そのような問題点をふまえた上で、KITTY事務局及びユーザーは行
動すべきだろうということがいいたいのです。
 
「事勿れ主義」の克服は口でいうほど簡単ではない、と思います。
それをどのように克服するか・させるか、を議論すべきでしょう。
(以下略)
86 上杉 (***) 25 行 1988/06/23 23:21 1 回
 
(前略)
ところで、ノート78の織田さんの疑問はKITTYにとってたいへん重要な問
題だと考えます。
架空の回答なんかじゃなく、市からきちんとした回答がくるといいですね。
それがないことには、いくらしっかりした反論を用意してもはじまりませんもの
ね。
「まちづくり」の具体的な問題の前に、その手法を確立すべきだと考えます。
その手法とは「市民参加」であり、その一つにKITTYがある、と思うのです
が。
残念ながら、まだ公認されてはいないようです。
したがって、現在の状況は実験段階にあるといえ、だからこそ、学会としての日
本計画行政学会が事務局を引き受けているのでしょう。
でも、そろそろ「結果としてのまちづくり」の時代から、「過程としてのまちづ
くり」へと方向転換がなされるときがやってきたのではないでしょうか?
「結果」としてめざすものが違っていても、「過程」が正しければ納得できる、
と思うのです。
(以下略)
88 足利 (***) 68 行 1988/07/18 21:54 31 回
 
RE>RE>...>KITTYの運営について
この話題は約1か月前になり、いまさらということでお叱りをうけることとして、
とにかく書きます。
まず、「40 KITTYについて考える」78番の織田さんの公開質問状から
端を発した、KITTYと市のかかわりかたなどについて書きます。
KITTYは、日本計画行政学会が川崎市から委託をうけた「キャンパス都市・
川崎」基本計画策定調査のなかに位置付けられております。運営主体は日本計画
行政学会で、資金はNHK放送文化基金と学会から出ております。
何をするのか?
いままでのまちづくりの計画作りはといいますと、いわゆる上が決めていた。そ
れを実行するのもいわゆる上の人でした。それはそれを生む時代背景があったの
です。しかし、現在は住んでる側と行政側で昔の様な情報量の差はほとんどなく
なりました。つまり、智恵の偏りがほとんどなくなってきました。そこで、それ
を生かす計画作りがあってはじめてよりよいまちづくりが推進できるのではない
か、と考えたのです。ただ、それをうまく働かしてまちづくりに役立てるという
ことになるとそれなりの訓練と経験が必要だとおもいますし、市民の智恵を集約
して力づよいものにしていかなければなりません。そのための道具としてパソコ
ン通信が役立てないか、ということでKITTYを運営することになったのです。
ところが、最初はどうやったら繋がるのでしょうか?ということが最大の関心
事ではなかったでしょうか。それが、織田さんのように、議論の核心に注意を向
けることができるようになったというのは、これからますます本来の目的のため
にKITTYを利用して貰えるのではないかと考えております。
そこで、今後のKITTYの運営方針ですが、それを考える前に「キャンパス
都市・川崎」基本計画策定調査について、全体像の輪郭をはっきりさせておかな
くてはいけないでしょう。この作業は専門家により構成される委員会が学会内に
組織され、基本計画策定調査が進められている一方、市民サロンという名称で市
民の方の意見を基本計画策定調査の途中から取入れようという場も作ってありま
す。これは、川崎市が開催主体となっております。そして、今度9月から11月
にかけて市民シンポジウムという名称で川崎全域各区でシンポジウムが開催され
ます。これには、いままでの計画策定調査委員会の途中経過がたたき台として出
され、基本計画策定調査へ市民の方の意見をとりいれるために開催されます。市
民サロンと性格は似ています。
さて、KITTYですが、ひとつは市民サロンが持つのと似た性格、つまり皆
さんの「キャンパス都市・川崎」構想への意見を基本計画策定調査委員会の近い
ところにプールする、議論を活性化するということ。もうひとつは、「キャンパ
ス都市・川崎」構想基本計画策定調査に関係なくまちづくりに関心を高めるとい
うことがあります。
もっと詳しく書きましょう。第一点目に関しては、「キャンパス都市・川崎」
基本計画策定調査に途中参加してもらい、意見やアイディアをいただかなくては
なりませんから、その状況報告が必要でしょう。それに当る掲示板や会議はある
と思います。これの議長は事務局がやるべきでしょう。ここで、出た意見などは
策定調査に必ず反映させるとはお約束できませんが、影響を及ぼすことができる
ことはあります。そんないい加減なことでは頭は働かんぞ!とおっしゃるかたも
いるでしょうが、市民はまちづくりに関してまだアマチュアです。発言のスタン
スも各自で決めて下さって結構だと思います。
第二点目に関しては、川崎に住んでいらっしゃるかたを中心に、「いいまちを
つくろうよ」という素朴な感情から話が始ればいいと思います。これは、できれ
ば川崎市民のかたが議長がいいのでしょうか?よくわかりません。この延長線と
してKITTYの自主運営があります。つまり、すべて会員で、その中から10
00人委員会のようにして運営について議論し、さらにお金も集めていくという
方策もあるでしょう。この会員で運営を議論することは、非常に大切なことだと
思います。
長くなりました。ひとまずここで終ります。書きすぎたかもしれません。書か
なさすぎたかもしれません。これは、日本計画行政学会の公式見解ではありませ
ん。現場の声です。びっくりされたかたもいらっしゃるかも知れませんが、質問、
疑問、不満、安堵感などの意見を頂ければと思います。
事務局 足利

追伸 もちろん市当局の対応については、上を読んで貰えばわかると思いますが、
書けと言われれば書きます。また、市への意見リンクの仕方ですが、市長への手
紙をバイパスとするといいと思います。
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このような形で1カ月に及ぶ、“KITTY”会員と行政の関係をめぐる議論は終息した。この議論の発端は、会員から行政当局に対する公開質問でありながら、行政としての対応というものはまったく見られなかった。ちょうどこの時期は、川崎リクルート事件が発覚したときでもあり、キャンパス都市構想推進に暗雲が垂れこめ始めた時期でもあった。このようなタイミングの悪さというものが当局の対応に影響を与えたのかも知れない。残念なことである。
しかし一方、行政と“KITTY”の関係を質そうという動きは、実は“KITTY”に対する会員の期待の大きさの裏返しでもあった。そこで次は、会員が“KITTY”に何を期待していたのかを見てみよう。
(以下「 60 まちづくり [町づくり] 」より引用
一部、原文の趣旨を損なわない限りで編集している。)
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90 羽柴 (***) 78 行 1988/03/29 12:42 8 回

IRIS’88川崎国際シンポジウムについて
明日、川崎で開催されるIRIS’88川崎国際シンポジウムにKITTYの
会員として発言をすることになった羽柴ですが、別に私がKITTYを代表す
るものではないので、あくまで私個人の「独断と偏見」に満ちた意見を述べさ
せてもらいます。
(中略)
 
ともかく、以下に私が発言しようとしている内容をメモしておきます。

1)KITTYに参加して変わったこと、あるいは変わるかもしれないこと
川崎生まれ、川崎育ちの私ですが、現在の生活は昼間は東京、川崎はただの
ねぐらに過ぎないような典型的「川崎都民」です。
KITTYに参加するようになって、「わがまち川崎」という意識がかなり
強まりました。

2)新しい友人ができたこと
私の仕事は中国の研究であり、そもそも付き合いの悪い人間ですので(この
点はKITTY会員は御存知のはず)、狭い枠のなかで生活しています。
KITTYに参加して、さまざまな人の考えを知ることができるようになりま
した。
ことに、これまでの私の「常識」でいえば、まったくコミュニケーション不
能と思われていた聴力障害者との交流が、パソコン通信では自由に行なえる、
ということは、大発見です。私自身の世界を大きく拡げてくれたような気がし
ています。

3)「ふれあい館」を開設することについて
川崎には在日朝鮮人が多く住んでおり、彼らの人権問題について、かねてか
ら気にはしていたんですが、具体的行動はまったくとっていませんでした。
今年、川崎市が全国に先駆けて民族差別の解消をめざす「ふれあい館」とい
う施設を作る、ということを新聞の報道で知りました。
大変素晴らしいことだと思い、さっそくその記事をKITTYの中の「月子
の部屋」(現在の名は「異文化について考える」)に転載しました。
そして、民族差別の問題についてKITTYで一緒に考えようと訴えたとこ
ろ、皆さんの賛同を得て、3月30日に「ふれあい館」(国際化と人権につい
て考える)という会議が開設されることになりました。
KITTYの場を通して、在日朝鮮人の人権問題をはじめとするさまざまな
問題を考えるなかで、国際化時代が叫ばれる今日、その「国際化」を内実のあ
るものにしていきたいと思っています。
パソコン通信によって「こころのふれあい」が実現できるようになれば、大
変素晴らしいことです。その点で、「ふれあい館」の展開に大いに期待してい
ます。
まあ、こんなことを喋れたらいいなあ、と今のところ考えています。
ただ、パソコン通信の現状については、未解決の部分もかなりある、と思っ
ています。
第一、「パソコン通信」という名前もよくありません。
いつも私は「いや、私はワープロでやっていますよ。ワープロでもできます
し、別に難しいものではありませんよ」といった説明をしなければ、パソコン
通信について、まだ体験していない人に話せない、という現状は困ったことで
す。
だれでもが気楽にとりくめるように、パソコンやワープロも変わらなければ
ならないと思います。
現状のもとでは、パソコン通信は一部の人のコミュニケーションの枠を抜け
でることはできない、と思っています。
この点は、いずれまたの機会にアップします。
皆さん、ぜひあなたのKITTY体験をアップしておいてください。
会場でお目にかかれる人もいるかも知れませんね。楽しみにしています。
(以下省略)
91 織田 (***) 62 行 1988/03/29 21:03 5 回
 
IRIS’88シンポジウム用意見です。
(中略)
私の意見を書いてみます。シンポジウムのテーマとずれがあるかも知れませんがご
了承願います。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
まちづくりに対してパソコン・ワープロ通信は有効か?
1)有効点
・気楽に書き込み、読みだしができる
・感情的にならず、じっくり考えていくことが出来る
・羽柴さんの意見のように、「郷土意識」を作り上げる新しいメディアで
ある
・行政と市民の間の意志のフィードバックが迅速になる可能性がある
・自宅に居ながらにして会議に参加できる
・身体障害者の社会参加のツールとして有望
・時間的制約がない、都合のいい時間にアクセスすればよい
・市民同志の第三のつながりが出来る(第一は近隣関係。第二は利害関係
〔学校、商店等〕)
・議事録の作成にかかる手間がほとんど不要
・マスメディアではなかなか取り上げられない身近な問題を扱える
・日常では会うことのない異業種の人と話し合うことが出来る
・市政に対する疑問点を共有することで市民の中に自主解決の姿勢が出て
くる
・自ら書き込むことで関心を持ち続けられる
2)否定点
・通信の参加者は全市民を代表しない片寄った層である
・参加者が多くなるとまとまりがつかなくなる
・積極的に意見を表明し、参加する人は一部だけである
・市政に対する意見の受け皿がない
・通信機器の改良が必要である
・通信に伴うコストの問題(電話料金等)
・会員にはなんの義務もないので無責任になりやすい
・通信機器を平易に使える人は少ない
・貧困層、高齢者層など通信しにくい層がある
3)意見
現時点では、様々な障害があるパソコン・ワープロ通信であるが、メディアとし
て拡がりだしてからの歴史と言っても、高々ここ2,3年のことに過ぎない。
従って、メディアとしてはまだまだ発展の途上にあり、ノウハウの蓄積も少ない。
そのため、通信をしている人は社会全体から見れば片寄った層である。電気会社や
職業がらワープロやパソコンを使う人達の一部が中心である。いわば、「趣味」の
段階であると言えよう。
しかし、技術の進歩、価格の低落は凄まじく、とくにワープロのそれは著しく、
家庭に入り込むスピードは加速する一方であろう。この場合ほとんどの家庭では年
賀状を書くだけの使い方しかせずに押し入れにしまわれる。ここで通信に参加して
みようという興味が出てくる。
このように一般の人々が通信に参加するようになる傾向は強まっていくであろう。
現に、各地にさまざまなネットワークが開設され、大分県のCOARAのように成
功している例もある。関連業界の人だけでなく、一般の主婦などが参加するように
なっている。
参加する際のネックとなるのが人間とパソコン・ワープロとのインターフェース
である。初めての人はまず間違いなくキーボードに怖け付く。敬遠する。タイプの
技術を持っている人でないかぎり、使い方を修得するだけで疲れてしまう。特殊な
技能がなくても文章を作れるような機器の開発が必要である。またこれは身体障害
者の参加に当たっても考慮する必要がある。
一般人の参加を増やすためには機器の改良のほかに行政のPR活動が大切である。
さらに運営資金の裏付けが必要である。現段階においては行政の直轄とするには
疑問が多い。この点、各界の識者並びに市民同志の議論が望まれる。
冒頭にも書いたようにメディアとしては歴史も浅く実験段階であるが、既成のメ
ディアにとって変わるのでなく相互に補完し合う方向で行くならば十分実用になろ
う。このことは、逆に言えば、通信だけでは不十分であるということになる。まち
づくりを論じる場に市民を誘いこむ効果は期待できるが、通信だけでは有効な議論
に結びつかないだろう。
4)結論
・成長中のメディアであり、実効性云々の結論は出しにくい。
・現時点では種々改良の余地があるものの、少なくとも効果を否定する材
料に乏しい。
・十分に議論するに値する市民参加の新しいメディアである。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
以上です。30分で思い付くままに打ったので、1)と2)は重複したり順序が混
乱したりしていますがよろしく。
147 黒田 (***) 46 行 1988/06/16 16:56 13 回
 
re:川崎都市開発のためのデータベース
(中略)
#135で書かれている前田さんのデータライブラリーを造ろうとのご提案に大
賛成です!! 前田さんは都市開発の議論のための基礎情報をライブラリー化しよ
うとのご提案ですが、僕からもデータライブラリーについては日頃このようなもの
があればいいな、便利だろうなと思っていることを僕の生活実感の視点からですが
提案させてください。皆さんは下記のようなことを感じたことはありませんか。

−−僕の場合−−その1
川崎市営のテニスコートがどれぐらいあるのだろう。幾らぐらいで、どこに申し
込めば利用できるのだろう。民間のコートは会員になるだけで入会金50万円ぐら
いはかかるし、お金が出せる出せないの問題ではなく、気軽に利用したいんだな僕
の場合は。

−−僕の場合−−その2
川崎市の市民保養所は何か所あるのかな。何処に申し込めばよいのかな。安いは
ずだから気どらずに仲間で利用できるだろうな。お金が出せる出せないの問題では
なく、気軽に利用したいんだな僕は。

−−僕の場合−−その3
川崎に自然公園のようなものはあったっけな。たまにはベンチとか草の上とかで、
時間が止まったような時間を過ごしたいな。山梨とか信州の方に行けば自然がいっ
ぱいあっていいのだけれど、気軽に行けないしな。

−−僕の場合−−その4
川崎には美術館があったっけな。となりの東京世田谷区なんか行くたびに感激し
て帰って来るのに地元の川崎は聞いたことも行ったこともないな。美術館があるの
ならば収集物はなにがあり、どういう企画展をやっているのだろうかな。

−−僕の場合−−その5
いつかチャリンコで走っていたとき、歩け歩け運動の集団に遭遇したけれど、あ
のような運動をしている団体は、まだ外にもあるのかな。たまには僕も参加したい
な。

−−僕の場合−−その6
川崎に座禅をさせてくれるお寺はないのかな。僕の郷里のお寺では、朝がゆ会と
いって食事をしながらお坊さんと参加者が心暖まるひとときをともに送ることを定
期的に行っているらしいが、こちらでもそのような所はないかな。あればたまには
行ってみたいな。
日頃、このような事を感じることがよくあります。もちろんそれぞれのことがら
について調べようと思えば区役所に行くなり図書館に行くなりすれば、調べられる
でしょう。でもせっかくkittyのような便利なメディアが川崎にはあるのだか
ら、市民生活に役立つ情報は、出来得る限りすべてこの中に入れてしまえば、後は
思い付いたときにネットにつないで利用できるから便利だと思うのですが。
便利ということ以外に、ネットワークに入れたデータライブラリーから、今僕た
ちが生活しているこの地域の今まで見えなかった全体の姿が見えて来るのではない
かなと感じています。川崎の未来都市開発の基礎資料にも成り得るのではないでし
ょうか。
また、一箇所に集めた情報は僕たち川崎市民の財産になるのではないでしょうか。
ram、romを問わず会員のみなさんすべてに質問です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
データライブラリーの具体的な内容は別にして、そのようなものがkittyネ
ット上では必要無い(すでに印刷物であるとか広報紙で情報をもっているから)と
思われますか。それとも有ればよいと思われますか。
今までromに徹していた僕のような人がまだまだ大勢いると思いますが、その
様な人も含めて、有志が手分けして3ヶ月とか半年とか時間をかければかなりの情
報をネット上に集める事が出来ると思います。どう思われますか。
(以下略)
164 伊達 (***) 36 行 1988/07/07 13:03 20 回
 
「?」フォ−ラムの質問状について
「キャンパス都市・川崎」構想への『?』フォ−ラムの会が6月1日付で
川崎市長あてに提出した33項目の質問状の中身を読んで、KITTYの会員
として非常にショックを受けました。極端に言えばKITTYの存否にかかる
内容だったからです。
いずれ事務局から全文の紹介があると思いますが、ここではその一部だけを
紹介してみなさんの討議の材料にしたいとおもいます。
(以下略)
------- 以上 ------

 

165 織田 (***) 7 行 1988/07/07 14:27 19 回

そうそう、私もそこが疑問なのです。
前々から、「?」をもちつづけています。
市側の見解を是非とも知りたい。
(以下略)

 

167 武田 (***) 12 行 1988/07/16 00:33 17 回
re:質問状
伊達さんは[KITTYの会員としてショックを受けた]そうですが、具体的にどん
なところにショックを受けたのですか?私としてはあの質問状はもっともな事ばかりと
思います。ですからkittyにしてもあまり町作りのめだまとしてではなく、もっと
軽いものと考えた方がよいと思います。今まで、この会議が実際に行政に影響を与える
存在になることを望む声が高かったように思いますが、私はまだその必要はないと思い
ますし、そうでなければ発言する気が起らないと言うのもちょっと変だと思います。パ
ソコン通信というのは行政に直接結びつかないところで、ある意味では偶然性と言うか
[消極的?な可能性への期待]というか、そう云った部分での価値がもっとも高いので
はないでしょうか。
(中略)
あの質問状について皆さんの感想を聞きたいと思います。

 

168 前田 (***) 35 行 1988/07/18 23:31 33 回

RE:質問状
武田さん、パソコン通信と行政の関係について論じたいのであれ
ばKITTYについて考えるで発言されたらいかがですか? まちづくり
ではまちづくりについて話しえば議論がかみ合うと思いますよ。基
本がまちづくりする気がないのではいつまでたってもこのフォ−ラ
ム進展ないよ。
実は、私は、KITTYに参加する前は、地方自治など自分には縁のな
い事と思っていました。やっているうちに、興味が湧いてきて、
(中略)
武田さん、パソコン通信は、それだけでは完結するものでなく、次
のステップにつながってこそ意味があるのではないですか。かわら
版しかり、オフラインパ−ティ−しかり。
(中略)
KITTYは使い方によって私達の生活を守り、変える力を持てる筈です。
====================================================================
この「まちづくり会議室」にも川崎リクルート事件の影響は大きく現れた。このためかどうかは不明としても、結果として、会員が“KITTY”に期待した市政や市民生活に役立つ情報のデータベース化はまったく手が付けられなかった。会員の間での要望の表明はあったものの、それに対する行政としての回答はまるでなかった。時間的な経過からいえば、このような状況の中で、先にみたような公開質問状が出てきたわけである。
 
しかし、行政と会員の関係はともあれ、会員間の交流はまちづくりに関しても一定の効果をあげていたことは、上のログ(通信記録)をみてもわかると思う。市政に無関心だった市民が関心を持つようになり、しかも通信上のやりとりだけでなく、実際に集会に足を運ぶようになっていった。上の議論では、川崎リクルート事件の影響もあってキャンパス都市構想に対しての消極的な意見が多数を占めたが、行政当局なり事務局なりからの適切な対応があれば、議論はまた違った展開になったかも知れない。いずれにしても、“KITTY”は、市民間および行政と市民をつなぐフランクな議論を提供する場、また、市民生活に役立つ情報を市民のニーズに合わせてタイミングよく提供する場になり得る可能性を秘めていた。
 
ところが、このような“KITTY”にとって最大の危機が訪れた。
それは、川崎市1989年度(平成元年度)予算において“KITTY”関連予算が認められなかったことである。“KITTY”のホストコンピュータはパソコンなので、NTTの回線使用料と電気代程度が固定経費で年数万円ほどの費用にすぎない。しかし、ホストコンピュータの設置を、市や計画行政学会の口利きで市内某コンピュータメーカーにお願いしていた経過があり、市が“KITTY”から手を引くことで、そのコンピュータメーカーから撤去を求められた場合の対応が困難だった。
 
1989年3月、“KITTY”会員の十数名が集まり、今後の対応を協議した。その結果、“KITTY”はなんとしても残したいということで意見がまとまり、4月からは有料性の完全民営化“Kitty-net”として存続することになった。また、事務局の奮闘でホストコンピュータも撤去せずにすむことになった。
 
“KITTY”の性格に関しては、もともと行政からのレスポンスがないということで、まちづくりにこだわる必要がないという意見もあったが、完全民営化を機にこのような主張が強くなった。まちづくり会議室の否定にまでは至らなかったものの、行政への期待まったくできなくなったことで、まちづくりに強い関心を持つ会員は、この有料化を機に何名かが去っていった。その後、まちづくり会議室の活性化の試みも行われたが、次第に尻つぼみになっていった。そして、1991年9月、ホストコンピュータの設置場所の変更に伴うハード、ソフトの買い替えを機に会議室の再編が行われ、ついに“Kitty-net”からまちづくり会議室は消滅したのである。

2 「21世紀・川崎まちづくりボード」

川崎市産業振興会館内のパソコンホスト局“IIP”を使った、新総合計画策定における市民参加の試み。

(1)概要

1991年10月1日 開設
運営 川崎市企画財政局企画室

(2)開設の目的など

ここでも、“IIP”オープニングメッセージから引用した、開設に当たっての市民あてメッセージを見ることにする。
===== << あなたの声を21世紀・川崎のまちづくりに! >> =====
「将来の川崎はこんな街になってほしい」など、21世紀の川崎のまちづくりに
ついて、皆さんの日頃感じておられることやご意見を、自由にお書きください。
(中略)
**ご意見等の掲載にあたっては、「21世紀・川崎まちづくりボ−ド」内の
「川崎まちづくりボ−ドへの意見掲載について(川崎市)」をご覧ください。
(お問合せ:川崎市役所 企画財政局企画室まで 電話044−200−2025)
=======================================

■開設のねらい

( 1 91/09/30 92/03/31 54 2010 川崎市企画財政局企画室
「川崎まちづくりボードへの意見掲載について(川崎市)」 より引用)

<新しい総合計画づくりに皆さんの声を>
川崎市では、現在、21世紀・かわさき新時代のまちづくりに向けて、将来
の川崎市の設計図ともいえる新しい「総合計画」の策定に取り組んでいます。
高齢化、国際化、情報化の進展や地球環境問題、東京への一極集中など川崎
市を取り巻く社会環境は大きく変化していますが、これらの変化に的確に対応
し、より暮らしやすく、活気のある21世紀の川崎をつくりあげていくための
計画づくりが求められています。
こうした総合計画づくりを進めていくにあたっては、当然のことながら、市
民の皆さん一人ひとりの声、意見が基本となります。そこで、「21世紀・川
崎の将来像」や「将来、川崎はこんな街になってほしい」など、皆さんの日頃
感じておられること、夢、ご意見などをぜひお寄せ下さい。
また、このパソコン通信「21世紀・川崎まちづくりボード」を、川崎の将
来像を語る市民の皆さん同士の意見交換の場としてもご活用下さい。

<意見掲載にあたって>
意見掲載にあたっては、次の事項にご注意下さい。
・掲載されたご意見等については、他の方々にも自由にご覧いただきます。
・住所、氏名等の掲載は自由ですが、在住・在勤等の区・町名、性別、年齢、
職業は記述して下さい。(例:川崎区宮本町在住・男(28才)・会社員)
・ご意見等は800字以内でお願いします。
(中略)
4 運用時間 8:00から24:00まで(日曜、祭日は休止)
(以下略)

(3)評価

1992年3月23日の本稿執筆時点では、13の意見が掲載されている。ただ、この掲載に関しては、システム上文書掲示期限を意見登録時に指定するようにしているため、指定期限が過ぎてしまった意見はすでに抹消されてしまっている。したがって、実際に登録された意見の数は、13を若干上回っていることになろう。それでも、6カ月で20には届かないのあるから、盛況であったとは言えないことは明らかである。
 
この原因はいくつかある。
第一。例えば、意見登録者の属性把握のための例示がアンケートにおけるものと同様であり、パソコン通信というニューメディアを使うにもかかわらず、旧来のメディアそのものの発想を引きずっている。その結果、先進的なパソコン通信愛好者にとって、魅力を感じさせるものではなかった。
 
第二。800字という原稿用紙を連想させる字数で書き込み制限をかけたことによって、意見登録者の自由な発想に水をさしてしまった。
 
第三。市民の方の第一号メッセージにもあるように、「午前0時で終わってしまう、日曜日はやらない」(「最初の書き込みかな?」(91/10/01 GUEST 一般))ということで、運用時間がパソコン通信愛好者にマッチしていなかったと考えられる。
 
第一から第三の原因をまとめると、旧来型の発想の中で媒体だけがニューメディアとして浮き上がり、旧来型の発想を感じとったパソコン通信愛好者の支持を得ることができなかったといえよう。先に見た“KITTY”のように、パソコン通信をとおしてまちづくりに参加したいと考える市民は決して少なくはないのである。今回は残念ながら、これらの市民層をつかまえることができなかったといえる。
 
第四。これは上のような形式的な問題を踏まえての運用上の問題であるが、「パソコン通信の魅力とは?」(91/12/03 GUEST 一般)にみるとおり、パソコン通信の最大の魅力である双方向性がまったく活かされなかったと感じられる。ボードを活況にしようと考えるなら、事務局からの適宜な情報提供に加えて、市民からの意見に対してのレスポンスは必ず行わなければならない。それに加えて、最低2〜3日に一度の書き込みはあってしかるべきである。パソコン通信界においては「一週間ひと昔」の諺が通用するほど情報の流通が速やかなのである。
 
第五。市民に対する意見募集の前提として、事務局からのテーマの投げかけというものも必要だった。何でも意見をどうぞ、というのも意見掲載者に予断を与えないという意味からは意義があるが、このような運営方針で意見が出てこないという判断をしたならば、方針変更を速やかに行うべきであった。また、意見を誘発させるための仕組みとして、テーマと、考える資料の提供はあってしかるべきである。

(4)総括として

「21世紀・川崎まちづくりボード」は、本来ならば、過去に行われた“KITTY”の延長線に位置すべきであった。ところが、“KITTY”の評価を踏まえるどころか、“KITTY”の存在さえ知らなかったような運営を感じさせる。このようなケースに「行政の継続性」という用語を当てはめるのが正しくはないが、同じ川崎市が関わるパソコン通信局なのだから、過去の評価・反省に立って、「21世紀・川崎まちづくりボード」は運営されてしかるべきであった。また、今後も引き続き、「新総合計画」策定のために「21世紀・川崎まちづくりボード」を運営していくのだとしたら、ぜひこれまでの実績を評価し、運営に反映されるよう切望する。
 
パソコン通信利用の目的は、必要とする情報の速やかな取得と利用者間のコミュニケーションである。したがって、まず情報が蓄えられ、取り出しやすいようにデータベースが構築されている必要があろう。次にその情報の取り出し方がわからない人のために、親切なQ&Aコーナーがあることが求められる。そして、このようなQ&Aをとおしてコミュニケーションが深まっていくのである。
 
自治体に求められるのは市政情報の集積で、これが市民への広報機能を担う。また、飾らないコミュニケーションの中で市民のホンネが現れ、自治体としての公聴機能も格段にアップする。そして、このコミュニケーションの内容を整理することで、『公聴データベース』ができあがり、政策立案の資料とすることも期待できる。しかし、このような可能性とともに、この可能性を実現するためには越えなければならないハードルもいくつかある。それを乗り越えるためのノウハウが必要なことは言うまでもない。川崎市においては以上のようにすでに二つの実践があるのであるから、これらから得たノウハウを今後に活かしていくべきである。

川崎市 山口道昭

『川崎市の広報広聴行政におけるニューメディアの活用について』所収、1992年3月刊

 
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