【訂正と補足】
2010/04/22 山口道昭
 
 本論文では、次のとおり記述しました。
 
 「さて、住民投票法の制度設計という論点に戻れば、住民投票条例の制定とこれに基づく住民投票が個別型住民投票条例でしか実施されていないという状況を踏まえる必要がある。住民投票法は、当然、住民投票の常設的根拠法でありながら、そのモデルとなるべき常設型住民投票条例による住民投票は、まだ実施されていないのである。」(30頁中段)
 
 すなわち、「常設型住民投票条例に基づく住民投票は実施されていない」としたところですが、すでに実績があるとのご指摘をいただきました。少なくとも95%程度の事実誤認でありますので、訂正しお詫びすることにします。その上で、残り5%について、なぜ、このような誤解が生じたのかについて、弁解がましいことを承知で言い訳を記したいと思います。
 
 指摘を受けた事実は、@美里町(埼玉県)、A富士見市、B旧・岩国市における事案です。
 これを受け、調べましたところ、@美里町(2004.4.25実施)とA富士見市(2005.10.26実施)は、ともに市町村合併にかかるもの、B旧・岩国市(現在の岩国市では、市町村合併の際に条例は廃止)(2006.3.12実施)は、米空母艦載機移駐案受け入れにかかるもので、住民投票が行われていました。
 根拠となる住民投票条例は、次のとおりです。
  条例名称 条例公布日 条例施行日 住民投票実施日
@美里町
 
美里町住民投票条例
 
2003/ 3/25
 
2003/ 4/ 1
 
 2004/ 4/25 
 
A富士見市
 
富士見市民投票条例
 
2002/12/20
 
2002/12/20
 
 2005/10/26 
 
B旧・岩国市 岩国市住民投票条例 2004/ 3/16 2004/10/ 1  2006/ 3/12 
 
 まず、市町村合併の是非そのものを対象にした住民投票は、数多く実施されています。それらの根拠が個別型条例であるのか常設型条例であるのか、確認を怠りました。むしろ、市町村合併に関する住民投票は、市町村合併の推進という国の政策に沿ったものと判断し(この判断自体も誤っていると、いまは考えています)、検討の対象から外してしまいました。たとえ、常設型住民投票条例の体裁を採っていても、そのターゲットは市町村合併にかかる住民投票である、といった思い込みもあったように思います。
 なお、このように考えますと、他の市町村でも、常設型住民投票条例に基づく住民投票が実施されていた可能性がありますが、これ以上のチェックはしていません。
 
 次に、旧・岩国市における米空母艦載機移駐案受け入れにかかる住民投票は、有名な事案で当然チェックしておくべきものでした。一方、有名な事案であることで、常設型住民投票条例が根拠であるとは思いが至らず、結果的に検討対象から落としてしまいました。あらためて検討しますと、次のとおりです(冒頭に述べた「5%の言い訳」の部分です)。
 
 旧・岩国市住民投票条例では、第2条で次のように定めていました。
住民投票に付することができる重要事項)
第2条  住民投票に付することができる市政運営上の重要事項は、市が行う事務の
  うち、市及び市民全体に重大な影響を及ぼし、又は及ぼすおそれがあり、市民に直
  接その意思を問う必要があると認められるものとする。ただし、次に掲げる事項を
  除く。
  (1)市の権限に属さない事項
  (2)法令の規定に基づき住民投票を行うことができる事項
  (3)専ら特定の市民又は地域にのみ関係する事項
  (4)市の組織、人事及び財務に関する事項
  (5)前各号に定めるもののほか、住民投票に付することが適当でないと明らかに認
   められる事項
 
 住民投票に付することが可能な事項を「重要事項」と概括的に定め、例外として、いわゆるネガティブリストを列記しています。
 そこで、実際に実施された「米空母艦載機移駐案受け入れ」が、上のネガティブリストに該当しないのかと検討すると、第1号の「市の権限に属さない事項」に該当するように思われます。もし、そうだとすれば、旧・岩国市における米空母艦載機移駐案受け入れにかかる住民投票は、旧・岩国市住民投票条例をそのまま適用したものではなく、条例を拡大解釈したものであるということができます。この場合、常設型住民投票による住民投票の一例と断定するには、躊躇を覚えます。
 しかしながら、このような検討の結果、本論文で取り上げなかったわけではありません。このようなことから、「95%の訂正とお詫び」をさせていただきます。
 
 ご指摘をいただいた方には、御礼申し上げます。