逗子市都市憲章条例(一試案)
逗子市都市憲章調査研究会(1992年3月23日)
 
 「逗子市都市憲章条例(一試案)」は、すでに条文体裁を成してはいるが、あくまで私ども研究会の調査研究結果の具体的発表形態にすぎないものであって、決して「逗子市都市憲章条例」の〈原案〉ではないことをお断りしておきたい。
 
前文
 逗子市とその市民は、「青い海とみどり豊かな平和都市」という都市宣言を受けつぎ、「地球と人にやさしい市民自治都市」を形成し発展させることをめざして、この都市憲章を定める。
 逗子市の市民は、この地球上の自然と人間を大切にする「地球市民」であることを自覚するとともに、次の世代の幸せを願いつつ、本憲章に基づく共生の人権と責務を全うしていくことに努める。
 逗子市は、地球市民がそれぞれの立場で主体的に参画する市民自治を重んじ、市民自治を土台とする創造的な市政の展開によって、地球と人間に真の責任を果たす自立した地球市民・平和都市づくりを推進する。
 この都市憲章は、日本国憲法の諸原理を、地球市民・平和都市づくりのために発展させたものであって、逗子市とその市民は本憲章に削ることによって、国の内外に対し、都市自治の職責を全うしていくことを誓う。
 
第1章 地球と人にやさしい市民自治都市
(逗子市の都市づくりの根本原理)
第1条 逗子市は、この地球上で人びとと野生生物が永遠に共生できることをめざし、主体的に、地球と人にやさしい市民自治都市を形成する。
(地球平和都市)
第2条 逗子市は、日本国憲法前文および第9条に則って国際平和を誠実に希求する、非核・非軍事の都市とする。
A逗子市は、地球上の平和を願う世界の都市との地域間海外交流を重んずるとともに、内外国人平等の市政に努める。
(市民自治都市)
第3条 逗子市は、市民の主権と人権を最大限に尊重し、市民自治を直接の土台としつつ市議会と市長に代表される民主的かつ創造的な市政を行う。
(グリーンデモクラシーの成果の普及)
第4条 逗子市は、市にかかわるすべての人と自然を大切にするような環境の形成をめざすグリーンデモクラシーを実現し、その成果を他の自治体および国ならびに世界に対して訴えていくこととする。
A逗子市は、グリーンデモクラシーにふさわしい市のシンボルとして、市旗・市き章・植物・動物などを定める。
(基礎自治体としての市)
第5条 逗子市は、住民に最も身近な地方政府である「基礎自治体」であり、その自覚をもって、その自治権と主体的責任とを全うすることをめざさなければならない。
 
第2章 地球市民
(地球市民宣言)
第6条 逗子市(以下「市」という。)は、市にかかわるすべての人を「地球市民」として遇し、それにふさわしい権利および責任を予定するものとする。
A市に在留する外国人は、地球市民にふさわしい権利と責任を、日本国民である市民と平等に有するものとする。
(地球市民の責務)
第7条 市における地球市民は、地球の自然環境に深く配慮した永遠の人間環境づくりをめざして協同することとする。
(障害をもつ市民の平等)
第8条 市において身体障害をはじめ人間生活に障害をもつ人々は、人にやさしい都市としての処遇をうける権利を保障されるとともに、市内の地球市民としての働きを等しく期待される。
 
第3章 市民主権と民主創造市政
(市民主権)
第9条 市に住所をもつ市民は、日本国憲法第92条にいう「地方自治の本旨」に則り、市政の主権者であって、逗子の都市づくりの中核となる主体である。
A前項の主権者市民は、直接民主主義を重んじ、市政に主体的責任をもって参画する市民政治の確立をめざさなければならない。
(市民自治)
第10条 主権者市民ならびに市内で活動する生活者市民および事業者市民は、ともどもに市の都市づくりに参画し、市民自治の実現をめざすものとする。
A主権者市民、生活者市民および事業者市民ならびに第13条にいう行政市民は、相互にそれぞれの立場を重んじつつ、ともに地球市民として、本憲章の原理の実現に向けて協同するよう努めなければならない。
(民主創造市政)
第11条 市長および市議会は、市民自治を直接の土台とする市民の代表として、本憲章の原理を生かす民主的で創造的な市政を展開しなければならない。
(市政公開の組織)
第12条 市は、市民自治を効率よく支えるため、市政の公開と市民参加を保障する躍動的な組織の編成に努めるものとする。
(行政市民)
第13条 市に勤務する職員は、第11条に基づく民主創造市政の実行に携わるとともに、主体的に市民自治に協力すべき者として、行政市民であることを自覚しなければならない。
(市の自治権の確立・拡充)
第14条 市は、本憲章の原理を生かすべくその自治権の確立に努めるとともに、本憲章の原理に理解を求めつつ他の自治体および国に対し、自治権に基づく主張・要請参加など必要な機能を行使していくものとする。
 
第4章 市民の人権と共生
(平和とアメニティのなかの生存権)
第15条 逗子の市民は、地球市民として、平和でアメニティをもった環境のうちに生きる権利を有することを宣言する。
(市民自治権)
第16条 市民は、それぞれの立場と場面において、市の都市づくりおよび市政に参画する自治権および参加権を有する。
A市民は、条例の定めるところにより、市政上の重要事項について、住民投票によって意見表明をする権利を保障される。
B主権者市民は、地方自治法等が定める各種の直接参政権を、本憲章の原理を生かすために活用しなければならない。
(情報への権利)
第17条 市民は、条例により、市に情報公開または個人情報保護を請求する権利を保障される。
A市は、前項における市民の権利の保障とともに、市民生活に必要な情報提供に努めなければならない。
(環境形成権)
第18条 逗子の市民は、地球市民として本憲章の原理を実現するため、市の総合的な環境形成に参画する権利を有し、それに相応する公共マナーを養うものとする。
(環境権)
第19条 市に生活する市民は、市民自治に基づく市政により、自然景観をふくむ地球と人にやさしいアメニティをもった生活環境を享受する権利を保障される。
(居住権)
第20条 市民は、前条の環境権をともなう住居を保障されるものとする。
(レクリエーションの権利)
第21条 市は、地球市民の貴重な権利として、青い海とみどり豊かな市の自然的および文化的環境を享受するレクリェーションの権利を保障する。
(消費者の権利)
第22条 生活者市民は、市により消費者としての権利利害を保障されるとともに、自ら権利者として地域的に協同しなければならない。
(事業者の権利)
第23条 事業者市民は、市内における事業活動が市の都市づくりの基盤をなしつつ発展しうることにかんがみ、本憲章の原理を生かす事業活動を展開する権利自由を保障される。
A市と事業者市民とは、地域発展のために公共的役割を分担し、その相乗効果を期するものとする。
(労働者の権利)
第24条 労働者としての市民は、市内にある労使関係において、本憲章にいう人間らしい労働条件の確保・向上を求める権利を保障されなければならない。
A医療および福祉に携わる労働者の権利は、次条に定める市民の権利にかかわるところとして、重んじられる必要がある。
(保健と福祉への権利)
第25条 市民は、市の地域計画により、健康で文化的な人間生活が営めるような保健・医療および福祉のサービスを保障される権利を有する。
A前項における市民の権利には、サービス内容を創造し事業運営に参加していく権利を含むものとする。
B高齢者福祉および障害者福祉においては、生活の自己決定をふまえた公的援助がなされるべきである。
(教育・学習への権利)
第26条 市民は、市内外の学校教育を通して地球市民にふさわしい人間としての成長・発達を保障される権利をもつ。国際連合の「子どもの権利条約」に削った子どもの人権保障は、学校教育および家庭教育等の基本条件とならなければならない。
A市民は、その生涯を通じて、市内外で地球市民らしく学習する生涯学習権を行使する。
B前2項に対応して、市は積極的な教育条件整備に努めなければならない。
(市民文化権)
第27条 市民は、市の貴重な自然と歴史にかかわる文化環境を享受し維持していく権利と責任を有する。
A市は、地球市民の平和自治都市にふさわしい行政の文化化をめざすものとする。
(公正な行政手続への権利)
第28条 市民は、市行政が透明で公正な手続で行われることを支えるため、個人および集団として行政手続に参加する権利を有する。
A市は、前項に対応して、透明・公正で市民自治的な行政手続を確保する立法措置を整えなければならない。
 
第5章 逗子のまちづくり
(まちづくり総合計画)
第29条 市は、地球と人にやさしい地球市民平和都市をめざす逗子市にふさわしい「まちづくり総合計画」を、次条以下に基づく諸計画の上位計画として持つものとする。
(環境管理計画)
第30条 市は、第1章の原理を実現するため、市内における自然的・都市的・文化的な環境の形成および管理について、市の自治権の行使として「環境管理計画」を策定・改定し実施していくものとする。
(環境利用計画と土地利用計画)
第31条 市の環境を利用する事業活動については、事業計画の決定に先立って十分な環境アセスメントをともなうような「環境利用計画」が定められなければならない。
A市は、土地がかけがえのない地球資源として都市の基盤であることにかんがみ、市内の土地利用が第1章の原理ならびに前条および前項の計画に叶うように、各段階において土地利用計画を策定しなければならない。
(街づくり計画と交通計画)
第32条 市は、地球市民都市にふさわしく、環境と資源を大切にしつつ都市の活性化をめざす街づくり計画および交通計画を推進していくものとする。
(市民施設)
第33条 市民が利用する市民施設は、地球市民にとってその生活と自治の公的拠点であり、市民が主体的にその設営に参画するものでなければならない。
 
第6章 本憲章の地位および改正
(本憲章の地位)
第34条 本憲章は、逗子市政にとっての基本原理を定めた条例(基本原理条例)であるという意味において、市のすべての自治立法等に対し、優先する法的地位を有する。
(本憲章の基本原理の解釈)
第35条 本憲章が定める基本原理は、日本国憲法上の「地方自治の本旨」および現代社会の条理に則し、市および市民によって主体的に解釈されていくものとする。
(本憲章の基本原理の効果)
第36条 本憲章が定める基本原理は、市におけるすべての立法および行政に生かされなければならない。
A前項の基本原理は、市にかかわる国等の法規の解釈・運用においても十分に生かされるものとする。
(本憲章の改正)
第37条 本憲章の改正は、議会における条例の審議において、総議員の5分の4以上が出席しその3分の2以上の賛成を必要とし、かつ、主権者市民による所定の3分の1以上の連署をもって要求があったときは、同市民の住民投票において所定の3分の2以上の賛成投票によらなければならないものとする。